街の短歌詠み

日々の生活や気づきを歌に詠んでいきたいです。

雨の街 (小さなお話)

いつかずっと昔、私が今の私ではなかった頃、雨ばかり降る街にいたような気がする。

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その街の、始終お祭りのような目抜き通りには、様々な店がある。カフェでは温かいコーヒーやココアが湯気をたて、ピロシキやドーナツが供される。

「今日も一日、雨が降り続きそうですね。いってらっしゃい」

店主の声を後に、私は曇ったガラスの嵌ったカフェの扉から出てくる。外はもう夕闇に包まれている。

 

紺色のラインの入った赤い傘と、赤に紺色の縁どりされたレインコートと紺色に赤いラインのはいったブーツという出で立ち。

銀色に光る雨は街をしっとりとさせている。街路樹のトネリコから雫がしたたる。

私はゴムのブーツを少し軋ませながら、濡れた舗道を進んでいく。

 

街は途切れない。随分、歩いた。まっすぐに伸びた道だけど、どこかでループしているようだ。さっき見かけたのとそっくりな店の前を、また通っている。

どの店の窓も湿気で曇っていて、灯は見えるけど中を覗くことは出来ない。

 

雨、雨、時々風、雨。

私はどこに帰るのだろう。ひどく疲れてきた。少し休まなくては。

 

どこかに帰りつくために、私は再びカフェの扉を開ける。

コーヒーの香りに包まれる。アイシングでデコレーションされたパステルカラーのドーナツが整列している。

「おかえりなさい。今ちょうどピロシキが揚がったところですよ」

扉が閉まると全ての窓は曇っていて、外は見えない。外から覗くことも出来ない。

雨は弱まることはあっても、止むことはない。